移転価格部門の中でUSCPAを持っている方は2、3割。資格としては一番多いと思います。


第150回 USCPA CMレポート  ~Big4における移転価格コンサルティング業務特集!

実施日: 2018年9月23日(日)

【Guest】 あつしさん

USCPAゲスト紹介

あつしさん (男性) USCPA


大学(文系学部)卒業後、日系メーカーに入社、情報システム部にて社内システム管理等を2年半ほど経験、その後米国の販売子会社にアカウンティングマネージャーとして赴任し、管理部門の業務を幅広く4年間ほど経験する。
この間にアビタスのWeb講座にてUSCPA試験に合格、ライセンス取得まで終了。
帰国後にBig4税理士法人の移転価格部門に転職し、アソシエイトとして、業種問わず日系及び外資系グローバル企業向けに移転価格コンサルティング業務を提供、現在に至る(社歴は1年5カ月ほど)。

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Q&A

実際の業務について詳しく伺えますか。

まず法人税の中のひとつの領域として移転価格税制というものがあり、税理士法人の中に法人税の部門や関税の部門等がある中で、移転価格部という部門があります。コンサルティング業務が主となり、対人スキルや論理的な思考力等が求められる仕事です。

では、何をしているかというと、移転価格税制に対応するためのリスク対策が大きな比重を占めています。つまり、移転価格の問題で課税を受けないために、移転価格の妥当性を分析しまとめた移転価格文書を作成したり、移転価格ポリシーを整備したり、税務当局と移転価格の妥当性を事前に確認するといった仕事がメインになります。

リスク対策以外では、クライアント先に移転価格に関する調査が入った場合に、会社と一緒に税務対応を行うといった仕事も多くあるのですが、ボリュームが大きいのは、リスク対策に関係する仕事になります。
サービス提供は、プロジェクト毎にチームを組み、一番上にパートナーという責任者がいて、マネージャー、スタッフという構成で、一番ミニマムなチームだと3名体制です。

スタッフの仕事は、平たくいうと「手を動かす」ことになります。クライアントとのミーティングのスケジュール調整、クライアントから提供された資料の確認、成果物となる文章のドラフトを担当し、適宜マネージャーやパートナーに報告・相談しながら最終的な成果物を作っていきます。

ドキュメントの作成というのは、パワポの提案系なのか、現状をまとめたものを提出するワード形式か、どちらなのでしょうか?

両方あります。成果物として文章を出すプロジェクトであれば、ワード形式で文章を作成しますし、ディスカッションが必要となるプロジェクトであれば、例えば、こんな取引を検討されていますけども、移転価格の観点から検討すべきリスク・問題点はこのようなものがありますといった内容をいったんPowerPointに落とし込んでプレゼンをして、その先で文書化が必要だということになれば、当然ワードで文章を作成します。

御社は税理士法人でグループとして監査法人だったり、コンサルがあったりすると思うのですが、そうしたところと一緒になってプロジェクトをすることもありますか?

多くはないですけどあります。それに今、増やそうとしています。例えば、監査法人のクライアントで移転価格の話が出れば、紹介を受けて移転価格部からクライアントにコンタクトを取るということもありますし、例えば、同じ税理法人内の法人税部門のクライアント先で、移転価格の話が出れば両部門で連携してプロジェクトを進めるということもあります。

個々の部門の力だけで獲得出来る案件というのは限界がありますし、せっかく同じグループなので、機会があれば、連携してプロジェクトにしていこうという流れです。そういう状況ですので、提供するサービスの幅は広がっていて、またクライアント、内部のメンバーで多くの人と関わりますので、とても面白いです。

仕事のもらい方に関してなのですが、クライアントから直接、相談が来て、仕事として受けるのか、それともグループの監査法人からそうした話が回ってくるのとどちらが多いのですか?

私はスタッフなので、営業というところには基本的に関与しないため、正確にどちらが多いとは言えないのですが、マネージャー、ディレクター、パートナーになると売上等の数字が求められますので、営業活動もしていますし、先ほど話が出たように、グループから紹介を受けてビジネスに繋がるということもあります。

加えて、移転価格に関するセミナーを開いて、その出席者に対して、後日個別訪問し、ビジネスに繋げていくこともあります。

チーム制でやると言うことですが、そのチームはクライアントの会社ごとにチームが組まれて、それぞれ掛け持ちをしているのでしょうか?

はい、その通りです。チームの組み方ですが、基本的には、パートナーが各クライアントに一対一で結びついています。クライアントから案件があれば、パートナーがマネージャーを選び、こういう話があるのでやりましょうと。

そして、パートナーとマネージャーがスタッフのスキルや作業量スタッフの希望等を考慮して、スタッフを選びチームが組まれます。尚、ひとつのクライアントに対して複数のプロジェクトがあれば、リソースの観点等から、同じパートナーのもとで、別のマネージャーやスタッフでチームが組まれることもあります。

今はどのくらいプロジェクトを持っていますか?

だいたいスタッフで10個以上のプロジェクトを掛け持ちしています。ですので、忙しいときは本当に忙しいですね。

クライアントの方は経理部とか税務部門と折衝する感じですか?

はい、窓口としては、経理、税務、あと経営企画の方が出てくる場合もあります。

海外に行くことは多いですか?

スタッフレベルだとほとんど無いです。マネージャー以上になると、プロジェクトの内容にもよりますが、年数回は、海外出張していると思います。

10件抱えている案件をどのように回していくのですか?

重要度、緊急度等を整理して、プライオリティの高いところから対応していくのですが、どうしても残業するときはしますね。

ただ、残業時間をきちんと管理する風土はあります。当然ですが、残業時間の実績に応じて残業手当が支給されます。

繁忙期だと残業時間も相応に多くなりますか?

そうですね。ただ柔軟性があって、朝残業の割増率が高く設定されていて、朝に早く来て働くことが奨励されています。夜にダラダラ残るよりは、って話ですよね。このあたりは凄く良いなと思っています。

移転価格部門というと物凄く忙しいというイメージだったのですが、以前からいる方に聞いたりとかして、だいぶ変わったんだなと思ったりはしますか?

昔の話と比べて、残業時間を管理しようという意識は高まっていると思いますね。実際、残業時間が多いスタッフに対しては、担当プロジェクトの見直し等も行われています。

社内の評価というのは残業時間が少なくて、多くのプロジェクトに関われているというところが高いのでしょうか?

はい、短い時間で効率よくアウトプットを出して多くのプロジェクトに関われている人は、当然評価が高いと思います。

忙しさでいうと年間で波があったりしますか?

法人税申告の前後がとても忙しくなる法人税部門と比べるとそこまで波はありませんが、しいて言えば、12月や3月といった企業の決算期末は忙しくなります。

幾つかのプロジェクトでそれが重なると忙しくなるわけですね。

そうですね。かなりしんどいです。
スタッフとして最悪なのは、多くのプロジェクトを抱え込みすぎて仕事を回せなくなり、プロジェクトを滞らせてしまうことです。他方、スタッフ本人としては、出来るだけ多くのプロジェクトに関わるというのは、自身の知識、スキル、経験を伸ばすために必要なことです。どこまでプロジェクトを引き受けるか、そのバランスが非常に難しいです。

人手不足という感覚はありますか?

ありますね。スタッフの人数が少ないという感覚はあります。今は3カ月に一度くらい新しいスタッフが入ってきているようなイメージですね。

新卒で入ってくる人はいますか?

ほぼいません。基本的に転職組で、特に第2新卒といわれる20代半ばくらいの方が多いです。ただ最近は新卒の採用も行っているようです。

USCPAをどのように活かしているか伺えますか。

移転価格部では英語の文書や財務諸表等を頻繁に扱いますので、英語力や簿記の知識等は活かせていると思います。

勉強した中で具体的にどういう知識が活きましたか?

英語の財務諸表やビジネス文章を読む力等はFARやAUDで養われたといえるかもしれません。BECのITのところはシステム面で会社がどう回っているか理解する上で役に立つと思います。正直、REGは個人の所得税なので、ほとんど使うことはないです。

担当する業界とか得意な業界というのは決まっているのですか?

スタッフレベルでは基本的にそうしたことはありません。クライアントは製造業、卸売、商社、金融や保険会社もあり、幅広い業界を見ることが出来るので面白いです。

これからの展望とか市場の広がりはどのように考えていますか?

東南アジアは、昨今日本企業が積極的に進出している一方で、現地の移転価格税制はまだ整備の途上です。

この点、アメリカ等の先進国に比べて現地で日本企業が移転価格がらみの課税を受けることが増えていますので、市場として重要度が高まってくると思います。

日系企業がインハウスで移転価格の部署を持つような事例って無いのですか?

国際税務を扱う部門の業務の一つとして移転価格を担当するケースはありますが、移転価格専門の部署というのはあまりないです。移転価格業務については、一部を自社で対応するという企業はあります。

例えば企業が移転価格の文書化等に取り組む場合、最初は自分たちでは出来ないし、リスクも取りたくないので、外部の専門家を雇おうということになりますが、その後の更新は自社で行い、レビューだけを依頼するクライアントもあります。

尚、我々のようなファームで移転価格コンサルティングをやっていた人が事業会社に移り移転価格を担当するということもあります。

インハウス化が進んでも市場が拡大しているので、法人としてはまだ仕事があるという考えですか?

そうですね。クライアント自身で出来ることはあると思いますが、やはり新しい取引を始めました、ストラクチャーが変わりましたとなれば、自分たちだけの判断ではやりたくないと思うんですよね。

そうするとうちに相談がきます。幸い移転価格税制はまだまだ整備途上の国が多く、動きのある税の領域ではあるので、そういう意味でマーケットは広がっていくのかなと思います。

海外と日本のやりとりが中心だと思いますが、海外にあるグループ会社と連携をとることもあるのですか?

海外のグループファームと連携することは多くあります。

例えば、日本本社のグローバル企業が海外の子会社との間で新しい取引を始めるというときに、日本事務所だけでサービス提供、サポート出来る案件であれば良いのですが、現地でサポートが必要となれば、ネットワークを使って現地の事務所を紹介して、サポートをするということはあります。

尚、日本から出向という形で海外のグループファームで働いている人も移転価格で4-5名はいます。

その海外へ行かれている方はスタッフの方ですか?

一番下の職階であるスタッフではいませんね。その上のシニアスタッフか、マネージャー、シニア・マネージャーになってから海外出向するという感じです。

一般的な事業会社での駐在というスタイルとは違って、我々のようなファームで海外に行く場合には、日本との契約を切らずに、現地のファームに出向する形になります。ですので、こちらから人を送りたいという意思もあるのですが、現地側として、こういう人が欲しいということにマッチングしないと現地も引き取ってくれません。

そうなると現地として欲しいのは、日本の移転価格の知識を持っている人なり、クライアントとのコネクションを持っている人、ということになるので、一番下のスタッフではなくて、シニアレベル以上が欲しいということになります。

海外から来る場合もありますか?

勿論、ありますね。今だと韓国、ベトナム、英国から来ています。移転価格部の1-2割くらいは外国人ですし、この割合は税理士法人の他の部門と比べてかなり高いと思います。

社内会議は英語ですか?

外国人がいれば基本的に英語になります。尚、部全体のアナウンスメールは英語できます。

比率的にはどの程度、英語を使っている感じですか?

私の場合半々くらいです。英語が得意な方は英語でレポートを書くようなプロジェクトにアサインされるので、ほとんど英語という方もいます。

あまり英語が得意じゃないという場合は日本語で対日系企業相手という案件が増えてきます。

あつしさんとしては英語は得意だという意識で仕事をされていますか?

全然ですね。部のメンバーの半分以上は、帰国子女なり、高校あるいは大学は海外に行っていたという人たちですので、英語のレベルは非常に高いです。

私は前職で4年の海外駐在経験がありますが、ミーティングの場、特に電話会議でネイティブ相手に話すとなるとしんどいです。

海外勤務4年間でも足りないのですか。

足りないと感じますね。伝えることは出来るんですけど、的確にバチッと話すというのは難しいです。尚、福利厚生として、英会話スクールに対する費用の7-8割は補助が出たり、選ばれた人は社費で海外語学研修に行けたりというものもあります。

英語の部分で待遇が違ってきたりしますか?日本語しか無理です、という人はそもそもいませんか?

待遇は変わりませんが、読めません、書けません、という人はいませんね。話すのが得意じゃないです、というぐらいまではいる感じです。

評価というのはどのようになっていますか?

1年間のサイクルでの評価です。スタッフに対し、マネージャーレベルの人が一人コーチとして付いてくれて、その人と半年に一度面談をし、年に一度の評価の際にコーチへ「1年間こんなことをやりました」というものを出します。その内を踏まえ、部の全体会議で評価が決まります。

転職していく方はどうした会社に行くのでしょうか?

他のBig 4の移転価格部に行く人もいれば、事業会社に行く人もいます。最近、シニアスタッフの方で、事業会社の経理に転職された方がいましたが、その人はUSCPAは持っているけど、経理で実際に手を動かしたことがないので、そういう経験が欲しくてと仰っていました。

移転価格の部門の中でUSCPAを持っている方はどのくらいいらっしゃるのですか?

2-3割ですかね。資格としては一番多いと思います。税理士と会計士が1割という感じです。

移転価格の知識というのは、事務所に入ってから身につけていくものということになるのですか?

そう思います。同じ業界にいた人で無い限り、入社してくる人が移転価格の知識を持っていることは基本的に期待されていません。いろいろな本も出ており、そこから学ぶことは出来ますが、入ってからどれだけ理解していくか、吸収出来るかだと思います。

仕事は面白いですか?

面白いです。前職では経理含め、管理部門を全部やるというようなところにいたんですけども、ルーチンをやっていくという要素が多かったので、今はルーチンが全くないわけじゃないですけど、答えが無いところに対して、自分なりに考えてアウトプットを出して、マネージャーやパートナーがああでもないこうでもないというコメントをくれて、また考えるという過程は今まで使ったことがない頭の領域を使う感じで、凄く面白いです。

それと相手がグローバル企業ばかりなので、日経新聞を読むのが楽しくなりますね。「あぁ、あのクライアントの記事だ」みたいな感じで。

クライアント先の規模というのはやはり幅がありますか?

ひとつ線引きとしてあるのは、BEPSというOECD主導のこういう文章を作りなさいというプロジェクトがあって、その文章を作る会社として色々と要件はあるのですが、クライアントは年間売上高1000億円以上規模の会社が多いですね。

クライアント企業の大きさによってチームの大きさも変わってくる感じですか?

だいたい会社の規模に比例するかもしれませんけど、基本的には、プロジェクトの工数によって変わってきます。工数がかかるプロジェクトで且つ大きな売り上げが見込めるとなれば、人を掛けてでもやろうということなります。

移転価格の仕事はUSCPAの合格者に対してお勧めは出来ますか?

出来ます。何かしらキャリアの方向性を変えたいとか、コンサル的なことをしたい、多少残業をしても構わない、ということであれば全然ありだと思いますね。

今の多少の残業というのが・・・(笑)

でも、皆さんの中には、ものすごく残業されている方もいると思います。休日出勤はたまにある程度です。他のファームで働いたことはないですけども、バランスは取れているのかなと思います。ただ何でもそうですけども、ある程度、時間を掛けないと身につかないこともあるので、その辺は難しいですよね。

連休は取れますか?

はい取れます。上司の顔色をうかがってということはなく、プロジェクトに迷惑をかけない範囲であれば連休も全く問題ありません。

監査法人というのは、予定がきっちり決まっているから、休みは前もって抑えられるんじゃないかと思いますが、プロジェクトで動いているといきなりぽかっと開くようなイメージなのですけども。

それは避けられないんですけども、だからといって休みを取るなとは言いませんね。マネージャーの中には休みでもメールが返ってくる人もいますけど、そのあたりは自分の中でどの程度、コントロールするかだと思います。

外国人のマネージャーとかスタッフは当たり前のようにどかっと休むので、それに引っ張られて皆も休んでいるところがあると思います。そのあたりの寛容さは一般の日系企業よりもあると思います。

内定を幾つか貰っていたということですが、他はどんなところでしたか?

移転価格だとうちだけで、あとはBig4の監査法人でした。

選考はどんな感じでしたか?

SPIと英語の翻訳、その後、面接が3回くらいあって、その中に英語での面接もありました。

税理士法人で移転価格を選んだ理由はあったのですか?

前職の事業会社にいたときは、実務では移転価格には関わっていませんでしたが、Big 4主催の移転価格の勉強会に参加したことがあり、面白そうだなという印象は持っていました。

そして転職先を検討するに際し、転職エージェントからUSCPAを持っているのであれば移転価格はありじゃないかと言われて、応募しました。

報酬面が良かったというのはあったのですが、面接に出てきたマネージャーなり、パートナーの方が凄く良かったんですよ。皆、人当たりが良いですし、コンサルティング業界の中では移転価格は働きやすいんじゃないかと思いますね。

昨年はうちの会社で移転価格の文書整理をしていまして、私がやっているわけじゃないんですけど、見ていてその頃、凄く忙しそうだなと思っていたのですが、そのタイミングで何かあったのでしょうか?

BEPSの文書化導入の関係で昨年が適用初年度で、どこも文書を作っていたからじゃないかと思います。実際、我々もその関係で昨年は多くの仕事をいただきましたね。

今年はどうなのかという話にはなるのですが、ある程度は内製化していくクライアントもあると思いますし、昨年みたいにゼロから作るわけじゃなくて、アップデートベースになるので、その分、今年は頑張らないといけないな、と思っています。

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